奈良や京都の古くから名高い神社や寺々は、今もなお多くの観光客が訪おとずれています。
たしかに年月がたった建物や、静かな庭園のたたずまいには、いかにも心をなごませる落ち着いたふんい気があります。しかし、よくよく考えなくてはならないことは、宗教の本来の役割は、物見遊山（ゆさん）や観光にあるのではなく、民衆を法によって救うことにあるということです。
つまり歴史的に有名であったり、大ぜいの観光客が訪れるということと、実際にその寺院が人々の救済に役立っているか、また参詣者に功徳（くどく）を与えているか、ということとはまったく別の問題なのです。

もはや古都の神社や寺々は、宗教本来の目的を失い、拝観料などの観光による財源で建物を維持することに心が奪われ、他をかえりみられないというのが現状です。そのほか、正月や縁日（えんにち）に大ぜいの参詣者でにぎわう有名な寺社も、宗旨の根本である本尊と教義を調べてみると、まったく根拠のない本尊であったり、仮りの教えであるなど、今日の人々の救済になんら役立つものではなく、むしろ正法流布のさまたげとなっているのです。

ところが宗教の正邪を判断できない人々は、開運・交通安全・商売繁盛・厄除（やくよけ）などの宣伝文句にさそわれ、これら有害無益の寺社におしかけ、自から悪道の原因を積重ねているのです。

日蓮大聖人は、
「汝（なんじ）只（ただ）正理（しょうり）を以て前（さき）とすべし。別して人の多きを以て本とすることなかれ」（聖愚問答抄・御書４０２頁）
と説かれているように、正しい本尊と、勝れた教法によって、民衆救済の実（じつ）をあげていくところに宗教の本質があるのであって、ただ歴史が古い、名が通っている、多くの参詣者でにぎわっているということをもって、その寺社を尊んだり勝れていると考えてはならないのです。

歴史的な建物や、庭園・遺跡いせきなどには、それなりの価値かちはあるのでしょうが、人々を救済するという宗教本来の目的から見れば、これら有名な寺社にはなんらの価値かちもないばかりか、むしろ人生の苦悩の根源となる悪法と、社会をむしばむ害毒のみがうずまいていることと知るべきです。