御霊宝虫払大法会は、宗祖御大会と共に宗門の二大法要と称される重要な法会であり、毎年四月六日・七日の両日、総本山大石寺において奉修されます。
正法厳護の御精神を目の当たりに
霊宝虫払大法会は、宗祖日蓮大聖人以来、七百五十年余の間、宗門に伝えられてきた多くの重要なご宝物を護り、後世に永く伝えていくため、年に一度、湿気を払い、害虫を除くなど保存に必要な手入れをし、あわせて多くの参詣者に披露して信行倍増に資する儀式です。
この法会は、遠く日興上人の正法厳護の御精神を基とし、御歴代上人が折々にお弟子方を督励して行われていました。明確な記録として、第十四世日主上人の時代(十六世紀)に、七月あるいは八月に行われてきたことを記した文書が残っています。
また、江戸時代以降は、三年おき、あるいは一年おきに、おおむね六月に行われてきました。
大法会の儀式
現在、総本山における御霊宝虫払大法会が、奉修されていることは、日蓮大聖人が誕生された貞応元(千二百二十二)年二月十六日が、現在の暦では四月七日に当たることによっています。
大法会一日目の四月六日、最初の行事である御開扉の折、御法主上人が本門戒壇の大御本尊のお清め・お風入れをなされます。
夜に入り、あかあかと篝火が燃えさかる参道を、大勢の僧侶を従えられた御法主上人が、しずしずと御影堂へ向かわれ、内陣中央の高座に上られて、御書講をされます。このあと僧侶による布教講演会が催され、一日目の行事は終わります。
二日目の七日は、午前二時半から客殿において勤行衆会(丑寅勤行)が修され、出仕僧侶・参詣信徒は弘宣流布の御祈念をされる御法主上人に随従します。
午前七時、御法主上人は再び御影堂に出仕せられ、第二祖日興上人の御報恩御講を奉修されます。
次いで午前九時より、客殿において御霊宝虫払の行事が開始されます。これらに先立ち、輪宝、鶴丸、亀甲の紋が入った長持ちに納められて御宝蔵に厳護されている数々の重宝が、客殿へ移されます。各長持を蓮台に乗せ、負担役の僧侶がこれを担い、御法主上人の先導される輪宝長持を先頭に鶴丸、亀甲の順に客殿内陣にお運びするのです。
そして、大石寺総代が立ち会って長持の封印を切り、輪宝の長持から大聖人の「御生骨(ごしょうこつ)」と「雨の祈りの三具足(みつぐそく)」が取り出され、正面の御前机(おまえづくえ)の中央に安置されます。
続いて、御法主上人の読み上げに従って、大聖人御真筆「師資伝授」のご本尊をはじめ、第二祖日興上人、大三祖日目上人以来、御歴代上人御書写のご本尊などが内陣と外陣の特設柱に奉掲されます。
最後に、大石寺創建の時、日興上人から日目上人に授与された大幅(たいふく)の「御座替(おざが)わり御本尊」が外陣中央に奉掲され、ここで読経・唱題が行われます。
この後、奉掲されたそれぞれの御本尊等について説明が行われます。総本山には、大聖人以来、代々の御法主上人の御本尊百二十余幅が厳護されていますが、御霊宝虫払大法会に奉掲されるのは、大聖人から第九世日有上人までの六十幅余りです。
御霊宝虫払が終わると、御真幹披露の儀に移ります。これは大聖人が認(したた)められた御書をはじめ、日興上人、日目上人等が書かれた書物やお手紙を披露する儀式です。
御法主上人が内陣中央の高座に登られ、読経・唱題ののち「日蓮一期弘法付属(いちごぐほうふぞく)書」「身延山付属書」と、日興上人が日目上人に与えられた「日興跡条々事(あとじょうじょうのこと)」を読み上げて披露され、引き続き大聖人の御筆による御書等が次々に披露されます。
これらの御真幹は、披露役の僧侶が奉持して、参列者に披露しながら内陣および外陣に設けられた通路を巡り、披露後は元の長持ちに納められ、儀式は終了します。なお、大聖人御真蹟の御書二十六巻は、昭和四十二年六月十五日、国の重要文化財に指定されています。
このほか、日興上人の御筆による多くの御書の写本や、お弟子に与えられたご消息、日目上人・日道上人のお手紙など、七百五十年の歴史と伝統の重みを示す数々の重宝が披露される様子は、まことに壮観です。
正法護持の精神を学ぶ
大聖人が入滅されたのち、日昭、日朗等の五老僧は「大聖人が仮名文字で書かれた手紙は、ご供養の返礼として愚痴の者を導くためのものであり、これを残しておくことは、大聖人の恥を後世に残すようなものだ」と言って、御書をすき返したり、焼いたりしてしまいした。このような暴挙は、不相伝の五老僧達が「大聖人は末法の一切衆生を救う御本仏であり、そのお言葉、書き残されたお文字は仏の御金言である」という、最も大事なことを解っていなかったことが原因です。
大聖人の正嫡(せいちゃく)・日興上人は、その心得違いを糾(ただ)し、散在していた大聖人の御書を集めて重要な御書の目録を作り、また自ら御書を書き写すなどして、御書の収集と保存に努められたのです。
こうした日興上人の令法久住の御精神を受け継ぎ、代々の御法主上人が厳護され、信徒の外護があったらからこそ、今日、我々は、尊い聖教を目の当たりに拝することができるのです。
私達は、御霊宝虫払大会を通して、大聖人の仏法を一分の誤りもなく伝えられた先師先達の御苦労心の思いをいたし、正法護持の精神を学ばなくてはなりません。
そして僧俗が、共々に妙法広布への前進を誓うところに、この大法会の重要な意義があるのです。
[大日蓮出版 日蓮正宗の年中行事より転載]